デ・ジャ・ビュ、日本語で言うなれば既視感。
経験したことの無いことを経験したかのように思う、という意味合いだ。 それならば今俺が感じているものはまさしくそれなんだろう。 「あつー」 太陽に有給休暇を出してやりたい今日この頃。俺は無駄に長い石段を登っていた。 どうやら千夜さんがこの神社にいらっしゃるという情報をゲットしたからだ。 鈴音には悪いがそうでもなければこの石段なぞ昼間から登りたくない。 夜の散歩には涼しくて、静かで気持ちの良いベストプレイスな訳なのだが。 ようやく鳥居が見えてくる。全て上れば黒髪の麗人がいらっしゃることであろう。 そう予想していた俺は千夜さんを呼びかけるべく口を開きかけた。 「おーい、千夜さ……」 言うなれば、俺は口が半開きというえらく間抜けな状態で静止してしまった。 さやさやと、風で草が音を奏でる中、その流れる金髪を押さえずに真っ直ぐに立つ姿。 しかし、普段ならば意志の強さが宿る瞳が半分以下に伏せられている姿がどこか危うい。 「……香憐」 俺の呟きは、どうやら彼女には届かなかったらしい。風だけが、神社の空気を揺らしている。 その時、俺は奇妙な感覚に襲われた。そう――このまま、香憐がどこかへ消えてしまいそうな、そんな感覚。 「香憐!」 気づけば、俺は香憐の傍まで寄っていた。瞳には驚きの色が重ねられたが、すぐにいつもの調子に戻る。 「気安く触らないで頂戴」 払いのけて一言。そしてメンチを切ってきた。 「何だ、ちょっと心配して損した」 「心配ですって?右京に心配されるいわれは無いわ」 「いや、何かボーっとして、遠い目してたからよ」 そう言いながら、香憐に並ぶ。香憐は、髪を弄りながらポツリと言った。 「何となく、ここを懐かしく感じたの」 「懐かしい?」 「ええ。何故だか分からないけれど、不思議と心が落ち着くの。初めて来た気がしないのよ」 やはり、古い建物と緑に囲まれたら日本人なら落ち着くのだろうか。日本人レベルではあり得ないくらいの金髪だけど。 「……失礼なこと考えているんじゃないかしら?」 「いや、日本人という素晴らしい血統について考えてたんだ。それで、彩香さんは?」 「後から来るわ。工事現場に行こうとしたら、途中でここが気になったのよ」 今日は風が強い。ふわりと、また香憐の金髪が風になびく。 「こういうのを、デ・ジャ・ビュっていうのかしら」 瞬間、俺は奇妙な感覚に襲われる。まるで、何度も何度も見たことがあるかのように。 「……右京?」 気づくと、香憐は俺の顔を覗き込んでいた。 「口半開き。随分と無様で間抜けな表情だったわ」 クスクスと笑うその姿。さっき感じた妙な違和感は消えた。 「悪かったな。でもな香憐よ、さっき俺が声かける前のお前も中々のツラだったぞ」 「えっ!? な、何でそんな所見てるのよ!」 「しかも一回声かけたのにシカトされたしな。右京悲しい!」 そう言うと香憐はさもおかしそうに笑う。珍しく声まであげていた。 「何ソレ。右京ってば馬鹿ね」 「悪かったな。お前みたいに賢く無いですよーっと」 言葉と共に軽く頭を叩く。するとお嬢様は柳眉を吊り上げて睨んできた。怖っ。 「怒るな。それよりも、お前も祭りの準備に参加するか?」 「するか?と聞かれても会場はウチの土地よ。どんなものになるかお手並みを拝見、というところね」 「それなら明日14時にウチの店。遅れたらクビだからな」 「遅刻なんかしないわ。ビジネスで時間がどれだけ重要か分かっていないようね」 不敵で、嫌なお嬢様スマイル。でもこっちの方が断然良い。好みだ。 さっきの表情は憂いを帯びてて壊れそうな美しさがあったから。そんなのを精力的なビジネス世界に生きる奴が浮かべていいはずが無いのだ。 「俺はもう帰る。用件は果たした」 「へえ、何か用だったの?」 「ハズレだったけどな。じゃあ、彩香さんによろしくな」 ざわざわと木々が騒ぎ出す。すると香憐は少しだけ迷ってから俺に手を振る。 そこにもう一度だけ、既視感を覚えた。 +++++ 神社は香憐ルート入ってから微妙に役立てる予定です。 というか自分の書く話に空白が多すぎて泣けてくる。 #
by overbearing
| 2006-08-24 00:47
| 交流イベント
盆踊り――。
盂蘭盆(うらぼん)のころに老若男女が広場などに集まっておどる踊り。本来は盆に迎えた精霊(しょうりょう)を送り返す行事といわれる。 <大辞泉より> やっぱり、古きよき伝統、そして千夜さんとこの浴衣やら花とかの売り上げが見込める上に活気づくのはこれくらいだよな! 「そして俺んトコの酒も売れるわけだ。ついでにカレーも」 「その通り! どう、俺のこの完璧な企画!」 ランチタイムも過ぎ去った14時20分。酒売を呼びつけて聞いてもらった。穴が無いかの確認作業は大事なことだ。 「場所はどうすんだ?」 「……確認はとってねーから確実とは言えないが『HARY』建設予定地」 「正気か? 右京よ」 「割と本気。だから酒売ちゃんも手伝ってよ~」 「それ棗ちゃんが言ってくれたらやってたんだけどなー」 「さあ棗!」 「二番煎じは良くないよ、お兄ちゃん。はい、ビーフカレーの大盛り」 そう言い丁寧に皿を置いていく棗。むう、我が妹ながら良くわかっていやがるぜ……。 「そういうこと。まあ、協力はしてやる。他ならぬ右京の頼みだ」 「流石酒売ちゃん!」 ぶりっ子のポーズをして酒売に対して上目遣いをしてみるテスト。対する酒売は呆れた顔だ。 「声色変えてもダーメ。俺は助言をしてやるだけ。説得はお前の仕事な」 「な! そこまですんならやってくれよー!」 「お前さんのためになんないでしょーが。つべこべ言わずにやりなさい!」 ガランガラン、と店の扉が開かれる。するとそこには、俺達のお話から飛び出したかのように都合よく現れた針屋香憐の姿。 「……酒売、お前ボヘミアンラプソディ使えたっけ?」 「あれは二次元限定で会話では成立しねーよ。で、香憐ちゃんお久ぶりー」 ニコニコと笑って手を振る。対する香憐はつかつかとこっちに歩いてくる。彩香さんも一緒で俺らに一礼。 「それで? お話って何かしら、右京」 「ねえ、話が飛躍しすぎじゃねぇ? スキップ機能使ったか?」 「実はさららから聞いてたりして香憐ちゃんに連絡取ってたりするのだ。さあ説得開始!」 唐突に鳴らされたゴング。それは香憐の視線という名のストレートにより若干のおくれを取ってしまった。 まっすぐに来て、逸らせないこの視線は美しさを通り越して暴力に近いものがあるのだ。 「その……さ。香憐、盆踊りって好きか?」 「……ボンオドリ?」 「そう! 盆踊りをな、うちの商店街で企画してて……」 「何ソレ?」 沈黙。小首をかしげる姿は紅葉の言葉を借りるなら『萌え』なのであろう。 しかし、俺的にはボディーブローを食らったみたいな衝撃。この小娘、盆踊りを知らぬと!? 「……あれ? 何か私変なこと言った?」 「おそらく、『盆踊り』を知っている前提での話しのようですから。想定外なのでしょう」 彩香さん、冷静な分析を有難う御座います。 「えー! そんなのって私が常識無いみたいじゃない!」 「申し訳ありません。南方さんに粕ケ谷さん。お嬢様は海外生活が長いもので伝統行事等はご存知で無いんです」 「彩香! そんなフォローいらない!」 後ろでキャンキャンと子犬がわめいているように聞こえる。普段ならほほえましいものとして見れるのだろうが……。 「まさしく想定の範囲外……」 「そうかそうか。じゃあ俺が立て直しておいてやるから回復しなさいな」 俺の肩を叩く酒売のアニキ。ああ、やっぱコイツってばカコイイな。 「いいかい香憐ちゃん。じゃあ盆踊りの基礎知識いっとく?」 「え、ええ。知らないことがあるのは気分悪いですし」 「そうか。いい心がけだな」 子犬を慣らすトップブリーダーよろしく、香憐がおとなしくなっていく。酒売は頭を一回撫ででから会話を再会する。 「盆踊りってのはな、お盆って言われている先祖の霊が帰ってくる季節にする踊りなんだ」 「霊……お踊りにどんな効果があるの?」 「楽しい気持ちで帰ってもらうために賑やかにするんだよ。ここまでは分かったかい?」 こくり、と頷く香憐。くそう。酒売に対してはえらく素直じゃねーか。 「で、これはうちんトコにしてもそっちにしても利益が出るんだ。出店を出して食べ物や金魚すくいとか色々出来るしね」 「なるほど……」 「で、女の子はこんなのを着ることが多い」 伝家の宝刀を抜いた。それは、泣く娘(こ)も黙る『浴衣のカタログ』。それを見た香憐はきらきらと目を輝かせる。 「うわー! 可愛い! 彩香はこれが似合うんじゃないかしら!」 「そうでしょうか?このような派手な色はあまり……」 「購入は伊勢原屋でどうぞ」 ついでに、と言わんばかりにそう告げる酒売。鮮やかだ、実に鮮やかだ。 「なあ酒売、お前いつの間にこんなテクを」 「色々な。それより、しめるトコはお前がしめろよな、リーダー」 肩たたきプラスで爽やかな笑顔。……ヤバイ。ちょっとだけ商店街近辺のオバサマの気持ちが分かってしまったかもしれない。 「……あー、まあとにかくだ」 咳払いをひとつ。すると香憐と彩香さんはこっちを見る。二対の美しい瞳に若干たじろぐ。 しかしながら、酒売にここまでお膳立てされてちゃんとできないとか、超かっこわりーだろ、俺! 「こういう伝統的なのを近所のガキとかにも見せて、それを覚えさせてやりたいし思い出を作ってやりたい。だから、協力してくれないか?」 頭を下げる。横目で、酒売も一緒に頭を下げてくれてるのが見えた。 沈黙。さっきとは違う温度。痛いくらいに空間内で充満している。 「……顔を上げなさい」 静かに、判定を言い渡す審判のように。香憐の目は『HARY』本社で魅せたものと同じ顔。 「私達に、利点は少ないと言えるわね。酒売さんの話術にだまされる所だったわ」 「手厳しいねぇ」 ため息をつく。どうやら本気だったらしく少々悔しそうだった。 「……でも、そういう『思い出』を作れなくなることは寂しいことね」 金に縁取られたの瞳が伏せられる。そこには哀愁が漂っている。 「検討します。私一人に決定権は無いわ」 「お嬢様、上手くいく保障はありませんが」 「だから検討なのよ。それに……」 浴衣のカタログをギュッと抱きしめ、聞こえるか聞こえないかの音量で言う。 「金魚みたいに、ヒラヒラしてて、可愛いじゃない。私も……ユカタが着てみたいのよ」 頬を赤らめて、そう言う香憐。そして、俺の心に去来したのは 金魚って、かわいいか? +++++ オチが弱いって反省してます。 ってゆーか、香憐があんまツンデレっぽくなくなってしまった。 #
by overbearing
| 2006-07-07 23:32
| 交流イベント
すみません。レポートとかレポートとかつよきすをやっていたのですっかり来ていませんでした。
今週中に3週目書くって言って何週間も書いていない訳で。 おまけにバイトも始めました。つよきすはオールコンプしたから良いんだけどさぁ。 そして、妄想がとまらないのでつよきすのSSとかも書きたいのですが。 ……まあ、それをやったらこのブログの本筋から大きく反れるので抑えておきますね。 今夜中に三週目をはじめます。今度こそれいじょさん嘘つかない!つよきすでツンデレの復習もばっちりだぜ! そして針屋さんちの香憐ちゃんは主人公嫌悪+高飛車・傲慢であるようです。文字列だけ見ると非常に嫌なお嬢様ですね。 まあその中でも可愛らしさを見つけ出すのが私の仕事でしょうがね……。がんばります! あと余談ですが、アニメのつよきすの雑感。ようつべで見ました(TVで見ようね、自分) ・ゲーム絵さえ思いだ無きゃ結構見れるよ。れいじょはストライクゾーンが広いです。 ・よっぴーがくーとかアニメオリキャラと同列な件について小一時間問いただしたい。 ・EDは奈々様が歌ってらっしゃるのですか? ・OPの『SとLのシグナル~』の部分は素奈緒とレオではなくスバルとレオの(ry ・上記の部分でレオが男のハーレムに居る件についてアニメスタッフに小一時間(ry ・というか、スバルはスバルのままでよかった ・アニメがスバル×カニになったらDVD全巻揃えてやるよ ・更にフカヒレが女子と幸せになれたらもう一本づつダブり買いしてやるよ! さて、そろそろ始めますかね。 #
by overbearing
| 2006-07-07 19:38
| 雑記
筆が進まない……。
プロットはとりあえず出来ているのですが何となく書けませんねー。スランプなのか? 最近は長編書くときは細かくプロット組まなきゃ出来ない体質になりました。でもどうせ予定は狂います。 予定というものは狂わせるために立てているのです。私の場合ですがね。 しかしながら今回はおおまかなプロットが組んでありますので大きく外れないようにしたいと思います。ハイ。 とりあえず今週中には三週目を書き始めたいと思っています。盆踊りやら酒売の暗躍やらを徐々に出してやりたいです。 #
by overbearing
| 2006-06-19 01:17
| 雑記
読書感想文→Cルート→読書感想文 のループですね。
というわけで今日は感想ですよ。あさのあつこ先生の『福音の少年』です。 自分、あさのさんのは『バッテリー』しか読んだことが無かったので(話題になってたから)図書室で借りて読んでみたんですよ。 ひとつの事件と、少年少女を描く話。テンポは良かったと思います。 こういう中高生の心理描写……というか『歪み』を書くのが上手いひとですよね。 事件が起こる前日の各家庭の会話とか……今思い出すだけで泣きそうになります。 だって切ないんですもの。皆希望を持って明日を迎えようとしてたのに、殺されてしまうなんて。 ラストは、少々後味が悪いですね。謎を多く残しすぎていますから……。 結局、この話は 明帆→陽→藍子→明帆 の無限ループな話ってことでオッケーなのでしょうか? 一言で言うの難しいから、皆さんお暇があれば読んで下さい。 書き方は上手いけどちょっとうーん……って気持ちになりますね。バッテリーで慣れた人は特に。あまりにジャンルが違いすぎますからね。 今週はもうフォビドゥン書けないかなー。つかちょっと『働く姿』の右京がかっこ悪すぎたかも。 二週目はまだツン分多目でかっこいい香憐にしたかったけどなー。 でも右京の見せ場は4週目だからいっかー。 #
by overbearing
| 2006-06-10 01:20
| レビュー
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『千客万来☆フォビドゥン商店街~VIPより愛を込めて~』のライター(もどき)である令嬢希望 ◆L3fW92fInUことれいじょのブログです。好物はツンデレです。本やらなにやらの感想も書いていきます。
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